「葵上」「弱法師」感想
2021年11月11日神宮寺勇太主演舞台「葵上」「弱法師」を観に行きました。
あれから1ヶ月近く経っていて記憶が薄れてしまっている所があるかもしれないです。
それに私自身が感じた第一印象を大事にしたかったから他の方のレポをあまり見ないようにしていたので、これから書く私の感想はいささか内容不足かもしれませんが、よろしかったらお読み下さい。
(もう書き終わったから、晴れて他の方のレポ読ませていただきます)
1.葵上
冒頭の看護師さんとの会話、そして康子さんとの会話も最初のうちは余裕のある大人の男感を出していたけど、徐々に康子に翻弄され、青さ幼さが露呈してくる光の様を見事に演じていたと思います。
観劇前に予習として原作を読んだ時の、私の光への印象は一貫して冷徹な大人っていう印象だったんだけど、舞台を見ると光の心理の移り変わりを感じて、「あれっ私の読み違い?」と、もう一度読み返してみました。
確かに光が主導してるようだけど、実は康子の方が一枚上手で光をもてあそんでいるともとれる・・・。
字面だけだったのが、舞台上で人が演ずることで細部まで世界観が見えやすくなるんだなと実感。
演出家さんによって、もしかしたら解釈が違ってくるものなのかも知れませんが、私にとっては宮田さんの演出しっくり来たなあ。
光、初めの頃は低めの大人っぽい声の出し方、そして相手より自分が優越してるかのような態度だったのに、徐々に康子と付き合っていた時の若い少年チックな声、物言いに変化していった気がします。
ヨットのシーンなんか、素直に航海を楽しむ無邪気ささえ感じたもん。
ミポリン、私と同世代なので(私のが2つ上ですが)アイドル時代の歌もドラマもリアタイしていて、ファンでした。
だけど今回改めて、声の美しさに気づきました。
昔の声も鼻にかかったcuteな声で大好きだったけど、たぶん年齢を重ねてまろやかさと品がプラスされたんだと思うんです。
康子の自分勝手な言動も、美穂さんから発せられると下品で薄っぺらい感じがしない。
良家夫人という物質的な豊かさがベースにある、余裕と品の良さ。
そして自らの老いを卑下しながらも、それを武器に変えるしたたかさ。
生霊を飛ばすほど光に執着する、業の深さ。
それらが説得力をもって伝わってきて、何なら共感しちゃうくらいです。
看護師役の佐藤みゆきさん、早口でまくし立ててるのに、リズム感が良くて聞き取りやすかったです。最近は「モネ」にも出てたよね。達者な女優さんですね。
葵役の金井菜々さん、病の床で寝ているか、うめき声を出しているシーンがほとんどでしたが、夫に愛されてない哀しさが、儚げなビジュアルとマッチして存在感がありました。
2.弱法師
冒頭の生みの親夫妻と育ての親夫妻のやりとり、大真面目に対決してるのに、どこか滑稽。
篠塚勝さん木村靖司さん加藤忍さん渋谷はるかさん、経歴見るとみなさん経験豊か。
余裕と重厚感のある演技のおかげで、私に残っていた葵上の空気を消し去り、弱法師の世界に切り替えて頂けました。
親だけの話し合いの後、いよいよ俊徳登場。
仕立ての良いスーツに身を包み、ぱっと見、光に似てるけど、サングラスをかけ、前髪をはらりと横に垂らしているので俊徳になっていました。
表情作りに重要な目をサングラスで覆われた状態での演技、難しいと思うんだけど、頬と口元の動きで、大人たちを小馬鹿にしている表情がしっかりわかりました。
そして光の、優越感がベースとなる上から目線演技とは違うんだよね。
俊徳の物言いも上から目線だけど、何か子どもがわがまま言って大人の愛情を試してるような感じがする。
俊徳は自信過剰と自信なさすぎが共存している人物だと、私は解釈しました。
そしてあの5分間の長ぜりふ、ここからは驚きの連続。
まずセリフの直前にサングラスをパッと外すんだけど、その瞬間に見えた目に、思わず息を吞んだわ。
私の周りのお客さんの「ファっ⁉」っていう息を吞む音も聞こえたもん。
声を出すわけにはいかないから・・・とはいえ、あまりの驚きに息は漏れちゃいますよ。
語弊のある不快な表現だったら申し訳ないのですが、目の形が盲目の方特有の形になっていたのです。
奥目っていうのかな、目の周りの筋肉が奥に下がっている感じ。
瞳の位置や動かし方も、盲人の方にかなり近かった印象。
今までいろんな俳優さんの盲人役の演技を色々見てきたけど、神宮寺くんが一番リアルに近かったように思います(勝手な私感ですみません)。
単に相手から視線を外すだけではなく、目の形、瞳の位置まで変えてしまう役者魂に凄みを感じました。
あれはメイクではないように、私には見えたな。
ご自分で筋肉の動きをコントロールしてるように見えたんだけど・・・。
ありがたいことに4列目真ん中へんで、お顔が割と見やすい席だったから。
これだけ延々と力説して来て、もしメイクだったらすみません(笑)
その後に続く一人語りも圧巻。
神宮寺勇太の演技力にもう降参ですよ。
演技というよりもはや俊徳くんだった。
だから俊徳が錯乱していく様を見て、怖さなのか不憫さなのか何だかわからない涙が私から出たよ。
顔を赤くして、額に大量の汗をかいて、激昂している俊徳の姿を目の当たりにして、こちらの心もぐしゃぐしゃにシェイクされちゃったよ。
級子役、美穂さんの品のよい声がより活きた役だったと思います。
知的な常識人って感じで。
3.おわりに
カーテンコールの神宮寺くんは憑き物が落ちたかのようにスッキリした、いつもの佇まい。
優しさと誠実さと人の良さしかにじみ出てこない、国彼スマイルでした。
キンプるの未来人や透明人間の時も思ったんだけど、スイッチの切り替えの速さがすごいし、役になってる時と素の時の落差もすごい。
現実離れした世界に一瞬のうちに入っていけて、いざその役になり切ったら、一切本人を出さない「没入力」、これは役者としての強力な武器だと思います。
今回の舞台は、神宮寺くんの持つ演技の才能をさらにステップアップさせたものになったと思います。
この高い壁を越えた、その次の姿が見たいよ。
役者神宮寺勇太の力が発揮できる機会が、これからもありますように。
きり